都営バスの燃料電池バスとは - 水素で走る仕組みと EV バスとの違い

この記事は約 4 分で読めます 最終更新日: 2026-09-14

燃料電池バスは水素で電気を作って走り、出るのは水だけです

停留所で待っていると、走り出すときのエンジン音がせず、ギアが切り替わる小さな衝撃もないバスが混じっていることがあります。燃料電池バスです。燃料電池バスとは、燃料となる水素と空気中の酸素を化学反応させて作った電気でモーターを回して走るバスで、走行時に出るのは水だけです。東京都交通局も「走行時には水しか排出しない環境にやさしいバス」と説明しています。

都営バスは 2015 年 7 月に走行実証試験を行い、2016 年度に 2 両を導入したうえで、2017 年 3 月 21 日から市販車では日本初となる営業運行を始めました。走り始めた路線は都 05 系統の東京駅丸の内南口から東京ビッグサイトまでで、東京の玄関口と臨海部を結ぶ区間です。両数はその後増え、2025 年 4 月 1 日時点で 80 両が運行しています。

ここから先は、水素が電気に変わってバスが動くまでの仕組みを順に追い、そのうえで乗ったときに気づく違いや EV バスとの違い、そして車両の見分け方までをまとめます。専門的な知識は前提にしませんので、化学が苦手な方も安心してお読みください。

仕組みを 3 段階で追う - 水素タンクから車輪まで

名前のとおり、燃料電池バスの中核にあるのは燃料電池という装置です。水素が電気に変わり、その電気で車輪が回るまでは、3 つの段階に分けて考えると分かりやすくなります。

第 1 段階は、水素を積むことです。水素は車体の上部に載せた高圧タンクに貯めます。2017 年に都営バスへ入った車両では、タンクの公称使用圧力が 70MPa (約 700 気圧)、内容積の合計が 600L と公表されており、車両を開発したトヨタ自動車は高圧水素タンクを 10 本搭載していると説明しています。

第 2 段階は、水素から電気を作ることです。タンクの水素を燃料電池へ送り、外から取り込んだ空気に含まれる酸素と化学反応させると電気が生まれます。軽油を燃やして力を得るのではなく、水素と酸素が結び付いて水になる反応から電気を取り出すため、燃焼にともなう排出ガスが出ません。反応のあとに残るのは水です。

第 3 段階は、電気でモーターを回すことです。作られた電気はモーターへ送られ、その回転が車輪を動かします。2017 年導入車の公表値では、燃料電池の最高出力が 114kW × 2、モーターの最高出力が 113kW × 2 でした。エンジンを積んでいないため、Tokyo 水素ナビは騒音と振動が少ないことを特徴として挙げています。

参考として、2017 年に都営バスへ導入された車両の主な公表値を挙げます。両数が増えるなかで車両は更新されていますので、あくまで導入当初の値としてご覧ください。

項目2017 年導入車の公表値
全長 / 全幅 / 全高10,555 / 2,490 / 3,340mm
乗車定員77 人 (座席 26 + 立席 50 + 乗務員 1)
燃料電池 最高出力114kW × 2
モーター 最高出力113kW × 2
高圧水素タンク公称使用圧力 70MPa (約 700 気圧) / 内容積 600L
電源供給能力最高出力 9kW / 供給電力量 235kWh

乗ると分かる違い - 静けさと、発進のなめらかさ

仕組みの違いは、乗り心地の違いとして現れます。東京都の水素情報ポータル「Tokyo 水素ナビ」は、燃料電池バスの特徴として次の点を挙げています。

  • 騒音と振動が少ない - エンジンを積んでいないためです。停車中にアイドリングの音がせず、車内での会話も聞き取りやすくなります。
  • 変速ショックが発生しない - 変速の段がないため、加速の途中で車体がわずかに前後する感覚がありません。
  • 緩やかな発進 - 急加速を抑制する加速制御機能が備わっています。つり革につかまって立つ人にとっては、この違いがいちばん体感しやすい部分です。
  • 視界支援カメラシステム - 車内外に 8 個の高精細カメラを備え、運転士の視界を助けます。

発進のときの「グッ」という溜めがないのも、変速ショックが無いことの表れです。バスに酔いやすい方や、車内で本を読みたい方は、揺れの質が変わることに気づくかもしれません。ただし道路の段差や渋滞による停止と発進の繰り返しは車種によらず同じですので、混雑した時間帯の車内では引き続き手すりやつり革を使ってください。

ちなみに Tokyo 水素ナビは、2024 年 4 月時点で東京都交通局が運用している車両を、トヨタ自動車の FC バス「SORA」として紹介しています。地球の水の循環を表す Sky / Ocean / River / Air の頭文字をつなげた名前で、走行時に水しか出さない車両の性格をそのまま示しています。2017 年に納車された最初の車両の車名は「トヨタ FC バス」でした。

EV バスとの違いは、水素を充填するか電気を充電するか

走行時に排出ガスを出さないバスには、燃料電池バスのほかに EV バスがあります。東京都交通局は EV バスを「外部電源から車載のバッテリーに充電した電気によりモーターを駆動させて走行し、走行時に排出ガスを出さないバス」と説明しています。どちらもモーターで走る点は同じで、分かれるのはエネルギーをどう積むかです。燃料電池バスは水素を充填してから車内で電気を作り、EV バスは外部の電源から電気を充電して積みます。

項目燃料電池バスEV バス
積むもの水素 (高圧タンク)電気 (バッテリー)
電気の作り方車内の燃料電池で水素と酸素を反応させて作る外部電源から充電した電気を使う
走行時の排出水だけ排出ガスなし

都営バスの EV バスは、2025 年 6 月に北自動車営業所へ 2 両が導入され、同月 10 日から営業路線での運行が始まりました。車両性能や効率的な充電方法などを検証するためのパイロット導入で、東京電力ホールディングスと 2023 年 9 月 21 日に締結した連携協定に基づく取り組みです。外観は江戸紫色に大きなプラグを描いた特別なデザインで、車内は後方まで段差がないフルフラットフロアになっています。北自動車営業所の庁舎壁面には、最大 10kW の薄型太陽光発電パネルも設置されました。

都営バスでの広がりと、災害時に電源になる力

2 両で始まった燃料電池バスは、2025 年 4 月 1 日時点で 80 両になりました。Tokyo 水素ナビは 2024 年 4 月時点の状況として、東京都交通局の運用両数が国内のバス事業者のなかで最大だと記しています。都営バス全体の車両数や路線の規模と併せて見ると位置づけが分かりやすいので、数の全体像は 数字で見る都営バス もあわせてご覧ください。

両数が増えると、水素を補給する場所が必要になります。東京都交通局は国内初となるバス営業所内の水素ステーションを有明自動車営業所に整備し、2025 年 4 月 1 日から運用を開始しました。営業所の敷地で充填できれば、走り出す前の準備が営業所のなかで完結します。

もう一つ知っておきたいのが、走る電源としての性格です。燃料電池バスは大容量の外部給電システムを備えており、非常時には避難所などへ電気を送る使い方ができます。2017 年導入車の公表値では、電源供給能力が最高出力 9kW / 供給電力量 235kWh でした。非常時には避難所などの電源として使う想定です。ふだんは乗客を運び、非常時には電気を運ぶ。燃料電池バスが単なる低公害車の枠に収まらないのは、この二つ目の役割があるからです。

見分け方と、次に取れる行動

では、どうすれば燃料電池バスに乗れるのでしょうか。手がかりは二つあります。

  1. 車両の姿で見分ける - 水素タンクは車体の上部に搭載されています。Tokyo 水素ナビは SORA の外観を近未来的と紹介しており、ふだんの路線車とは印象が異なります。EV バスは江戸紫色に大きなプラグを描いたデザインですので、こちらは一目で分かります。
  2. 運行情報から探す - 東京都交通局は、燃料電池バスの運行情報を都バス運行情報サービス tobus.jp のラッピングバス検索「FC バス」で確認できると案内しています。EV バスは同じサービスの車両検索「EV バス」が案内先です。

狙って乗るなら、まず運行情報でその日に動いている車両を確かめ、通る系統ののりばへ向かうのが確実です。到着の見込みを知りたいときは、都バスどこのトップページでは、いま走っているバスの位置とのりば別の到着見込みを地図で見られます。バスの位置がどうやって表示されるのかは バスロケーションシステムの仕組み、思ったとおりに来ない日の背景は バスが遅れる理由 でそれぞれ説明しています。

燃料電池バスは、水素という燃料の話であると同時に、静かな車内や非常時の電源という日常に近い話でもあります。次に停留所で近未来的な車体を見かけたら、少し早めに手を挙げて乗り込んでみてください。走り出しの静けさは、説明を読むより雄弁です。

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